1、あの時は苦しかった

 

 せっかく作ったチョコ。あげるんだったらやっぱり手渡ししたい。

 でも、手渡し以前にこのチョコは本人に届くのだろうか?

 

 「あ〜あ、結局あまっちゃうのか〜・・・」

 綺麗にラッピングされた箱が二つ、小さな手の中で遊ばれていた。上に掲げてみたり、リボンを調えてみたり、じぃーっと凝視してみたり。そしてその度に溜息が漏れる。

 「次に会えるときじゃ遅いじゃん。せっかく作ったのになぁ・・・」

 背もたれの無い椅子の上を、勢いをつけて一回転する。横にスライドしていく景色はもう何度も見た。箱遊びと溜息と椅子回転を永遠と往復しているのだ。

 「もう、はしたないでしょう?女の子なんだからお行儀よくしていないと、またからかわれちゃうわよ?」

 「そ、そんなことないもん!もしも言われたって言い返してやるんだから!それよりお母さん、なあに?」

 「ああ、そうそう、あなたにいい知らせを持ってきてあげたのよ?」

 得意げな母の顔をきょとんとした表情で見上げる。母は指で二つの箱を示してみせた。

 「それ、ちゃんと贈ってあげられるって」

 「えっ、本当!?」

 思わず椅子から飛び上がった。

 「鬼ヶ婆様が特別に、転送魔法を使ってそれだけ送ってくださるそうよ。よかったわね、サラ?」

 「うん!!」

 満開の笑顔で頷くと、二つの箱を抱えて家を飛び出した。気持ちが逸るのを押さえて、転ばないように全力で足を動かす。思ってもみなかった朗報は暗かった一日を最高の一日にしてくれたのだ。

 「待っててね!兄ちゃん、ピロル!」

 

 遠い修行の地で頑張っている兄へ、そして傍で支えてくれているであろう弟(正確には弟みたいな家族)へ、「頑張って」のエールとともに贈ろう。

 なかなか会えなくて寂しいけど、その分会える日が楽しみだから。自分もいっぱい成長して待っていよう。

 

 次に会えるのは春くらいかな・・・

 

 遠い日の一ページにて、カイン八歳、サラ六歳、ピロル五歳・・・


なんだかんだ言ってもサラはお兄ちゃん大好きです。