2、バレンタイン?何それ?
「今日はバレンタインか〜、去年はけっこう貰ったっけなぁ・・・」
「そうですね。僕もサラさんにおいしいチョコを貰いました」
どこか自慢げに話すカインと楽しそうに思い起こすピロル。そしてそれを一歩引いたところから俯き加減に聞いている少女が一人。
「ところでティクさんは誰かにチョコを渡したりするんですか?お父さんとか」
「・・・・・・・・・」
「さすがに君でもこういうイベントにはのるでしょ?あ、もしもあげる人がいなかったらオレが貰ってあげよ―――」
「ねえ?」
ふいにカインの言葉を遮ったのは、想像もしなかったティクの質問だった。
「バレンタイン?それって何?あたし知らないんだけど」
一瞬、いや数秒はその場の時間と空気が止まった。沈黙の重さに耐えかねたのは時間と空気を凍らせた本人・ティクで、心なしか頬を染めながら抗議にでる。
「し、知らないものはしょうがないじゃん!それで、いったい何なの?チョコとか、誰かにあげるとか貰うとか・・・もう!悪かったね、こんなことも知らなくて!///」
「いや・・・むしろ訊いたオレが馬鹿だった」
「何それ!?それじゃまるであたしは常識人じゃないみたい」
「うん、まあ・・・・・・って、いやね、何となくそうじゃないかな〜ってのは思ってたんだけどさぁ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ティクの眉間には皺がより、何となく空気も悪くなっていく。
そんな中、一滴のオアシスが場を潤した。
「ティクさん、バレンタインというのはですね・・・女性から男性にチョコや贈り物をする日なんです。逆に男性からのお返しは一ヵ月後のホワイトデーですね。家族だったり友達だったり親しい大切な人へ、または好意を寄せている人へ贈るんですよ」
天使のような可愛らしいピロルの笑顔が、ティクの表情をも柔らかくさせる。「ふ〜ん」と感心するように聞き、また一つティクに新たな知識が備わった。
カインは力が抜けたかのように一息吐く。
(仮にも年頃なんだからバレンタインくらい知ってると思ったんだけど、これじゃあチョコがどうこうって話にもならないね。まあ、しょうがないか・・・・・・って、オレは何期待してんだよ!いやいや、期待してたわけじゃないけど、今のじゃまるで期待しているみたいじゃん!かっこ悪いって!)
「どうかしたの?」
「うわぁっ!」
激しく自分にツッコミを入れているところに、問題の主要人物が突如介入。珍しく本気で驚きの声を上げてしまった。
「何でもないよ、本当に何でもないから」
「ふ〜ん・・・あっそうだ!今年は無理みたいだけど来年はチョコあげるね」
「へ?」
「だって親しくて大切な人に贈るんでしょ?相棒だもんね!」
この子は自分の心を読んだのだろうかと、一瞬だけ本気で考えた。でもこういうところも少女なのだと、すぐに思い出した。照れとか出そうな台詞でもさらりと言ってのける少女だったのだと。
「・・・・・・そう、ありがとうね。楽しみにしてる」
「まっかせなさい!」
素直に嬉しいと思えたのに、ひねくれた笑顔でしか伝えらない自分を、まだガキだと再認識した日でした。
たとえイベントが存在していてもティクは普通に知らなさそう・・・