6、形ある想い

 

 差し出された小さな箱。そして俯いたまま目をあわせようとしない少女。青いリボンで飾られたそれを、目の前の少女が俯きながら突き出してきたのだ。

 「あの、シア?これは?」

 「チョコ・・・一応、今日ってそういう日なんでしょう?」

 テラスの手すりに腰掛け、退屈そうに足をぶらつかせていたカシルのもとに、シアがやってきたのはかれこれ十分以上も前。不自然なくらい目を合わせないようにやってきた少女は、視線を外に向けたまま何も言わずにただ手を手すりに置いていた。適当に話題を振ればそれらしい答えが返ってくるものの、様子がいつもと違っていた。何かを口にしようとしては、すぐに言いとどまる。

そして今に至る。何を合図にしたのか、ふいに箱を差し出してきたのだ。

 「今日?えっと、二月十四日だっけ?・・・ああ、バレンタインデーか」

 ここでようやく納得する。たしかに人間達の行事の中にこういったものがあった。しかし、たしかこれは男性から女性へ贈る風習ではなかっただろうか?

 「セーラさんに聞いたの。下界の島国では女性から贈るんだって」

 「ああ、なるほど!そういえばつい最近そんな風習が出来たんだっけ?」

 「つい、最近?」

 最近と言ってもそれは化身にとっての感覚。実際は三、四十年も前である。

 「それで、チョコをオレに?」

 「・・・・・・まあ、よく助けてもらってるわけだし、その、感謝の意で」

 よく見てみれば、少女の顔はほのかに赤かった。おもわず顔がほころぶ。もしかしてこれを渡すために四苦八苦していたのかと思うと、おかしいやら可愛いやらで笑いたくなった。でもここで笑えば確実に怒らせてしまうだろう。それはちょっと可哀想だ。

 「サンキュ、シア」

 「どういたしまして」

 リボンを解いて箱を開けてみると、雪だるま型のチョコレートがのぞいた。彼女らしさが滲み出ているチョコレートだった。

 「ひょうたん?」

 「雪だるま!!悪かったわね、下手くそで!じゃ、私は仕事に戻るから」

 結局からかってしまった。たしかホワイトデーという行事もあったはずだから、おわびに何か彼女の喜ぶものを頑張って考えよう。

 普段こうやって形にしてくれることはめったに無い彼女だから、しばしこの嬉しい余韻をかみしめることにした。

 「うん、おいしいね、やっぱり・・・・・・セイルに自慢しなきゃ」

 

 『シアちゃん、たまには素直になるのもいいわよ』

 『す、素直にって・・・』

 『ちょうどバレンタインでしょう?ね?想いを形にしてみるの』

 『形に・・・・・・そうですね、たまには』

 『ええ、それがいいわ。よかった〜』

 『たまにはね・・・たまには』

 

奏に出会う前の話ですね
一番バレンタインっぽいかも・・・