7、お返しをよろしく

 

 「はい、レオン」

 「これは、その・・・チョコレート?///」

 「だって今日はバレンタインじゃない」

 にっこりと笑顔でチョコを渡す奏、と戸惑いながら受け取るレオン。そして二人のいる廊下に続く扉の影から見守る四つの影。

 「おお、とうとうレオンの奴が奏ちゃんからなんか貰ったぞ!」

 「やっぱあの二人、同期なだけあって仲良さそうだったもんなぁ」

 「でも日浦の国ってたしか『義理』もあるんだろう?」

 「たしかになぁ。さすがにまだ恋愛未満ってやつか・・・」

 彼らは何を隠そうレオンと同じ部署の先輩神官たち。生真面目で堅物気味ではあるが可愛い後輩を陰ながら楽しむ、もとい、見守る心優しき者達である。

 「俺も奏ちゃんからチョコ貰いたかったな・・・」

 「明るくて一生懸命で、シアちゃんに続く天使到来か!?って言われてたもんな」

 「ま、義理でも本命でも俺たちはあいつを見守ってやろうぜ?今のところ『お友達』どまり有力っぽいけど」

 「そうだな・・・・・・おい!何か動きがありそうだぞ!」

 一番年若い神官の声に、慌てて廊下の二人に視線を戻す。相変わらずレオンはどこか戸惑ったままだが、奏は逆に楽しそうに笑っていた。

 「私の国ではね、女の子からあげるのよ」

 「そう、なのか?」

 「うん!じゃあ、私はそろそろ行くわね!(セイル君達にも渡さなくちゃ)」

 「あ、ああ!その、ありがとう///」

 頬を染めたレオンの礼に足を止めて振り返り、「どういたしまして」と返す。踵を返してまた歩き出したかと思えば、思い出したように再び足を止めて振り返った。

 「ホワイトデーよろしくね!お返し楽しみにさせてもらうから!」

 「へ???」

 奏はそれだけ言うと足取り軽く去っていった。あとには疑問詞と赤みを顔に浮かべたレオンと心優しき先輩達がひそかに残った。

 「で、結局どっちだったんだよ?」

 「俺に訊くな!まあ、あのレオンの赤面っぷりからあいつの気持ちは確定か・・・」

 「たしかに・・・じゃあ、甘酸っぱい片思いの始まりか!?」

 「奏ちゃんもなかなかやる―――」

 「そんなんじゃないだろう」

 「「「「どうわああぁぁぁああ!!」」」」

 突如介入した低い声。四人の間に一人の中年男性が割り込んできた。チョコの箱を見つめながら困惑の表情を浮かべているレオンに目をやりながら、男は言葉を続けた。

 「あれはまだ恋愛未満だろう。奏にいたってもただの友達だな」

 「ええ〜、そんなんじゃつまんないっスよ先輩」

 「そうっスよ、あんなに赤くなってんだからこれはもう・・・」

 「いや、別に俺はお前らを退屈にさせようってんじゃないんだ。ほら、あいつは何処出身だっけ?」

 先輩と呼ばれた男は近くにいた後輩に答えを促す。

 「イギリスだったはずです」

 「だろ?それにあいつの性格を考慮すれば、『しきたり』らしい『しきたり』しかまなばないだろうから・・・・・・」

 「そっか!そうだよ、日本と違って向こうは―――」

 義理ってのは存在しないんだ。共通の一文が浮かんだレオンの心優しき先輩一同に、気味の悪い笑みが同時に浮かんだ瞬間だった。

 「だろ!?完璧にあいつ勘違いしてるって!どうだ、退屈したかぁ!?」

 「なに言ってんですか!むしろからかいがい出来たっつうか、これから面白くなりそうっつうか!」

 「ああ、これから仕事しながらあいつの自問自答を見ていられるんだな」

 「おまけに奏ちゃんは俺らの天使のまま!」

 「しょうがない、俺たちが可愛い後輩のために一肌脱いでやるかぁ!!あははは!」

 こうして扉の向こうは大いに盛り上がり、一方、廊下の少年はそんなことを知るよしもなく、すでに自問自答を繰り返していた。

 

 バレンタイン、それはレオンの苦悩の始まりの日になったとか・・・・・・

愉快で心優しい、温かな先輩方です。たぶん