1、 魔玉使い
この物語の舞台は、まったく別の世界。
人間は存在しているが、モンスターや不思議な術も存在する。
この物語の主人公もまた不思議な能力を持っている。その名も・・・
「カイン兄ちゃーん!たったっ大変だよー!」
「ん?どーしたの?もしかしてモンスターが襲ってきちゃってたりして・・・。」
四歳くらいの少年が汗だくになって走ってきた。顔はおびえきっていて、どうやら助けを求めにきたらしい。
「そっそれがそのとおりなの・・・!村はずれの大人たちの仕事場を・・・。ゴリオンがいきなり襲ってきて・・・。」
「うっそ!(冗談のつもりで言ったんだけど)・・・よし。しかたない、行こう。」
「うん!」
軽く、そしてどこか余裕と自信が窺えるが子供らしさもある口調、そう、この「カイン兄ちゃん」と呼ばれている十三くらいの少年が主人公のカイン・ヤグ。
白地に緑の縁取りをしたフードつきのマントをかぶった、緑髪の少年だ。
そのころ仕事場では、大人たちが全員避難し終えたところだった。幸い、大きなレンガづくりの丸太収納小屋の屋根に、直径三メートルほどの円い穴があいているくらいでまだケガ人はいない。ちなみにこの穴はゴリオンのパンチの跡だ。
そもそもゴリオンとは、ゴリラとライオンを混ぜた感じの乱暴で凶暴なモンスターである。普段は山の奥で暮らしていて、めったに人里には顔を出さない。
「や・・・やっと着いた。カイン兄ちゃんこっちだよ!」
「ああ・・・。まだケガ人はいないみたいだな。」
カインと少年は今現場に着いたところだ。その時!
「うわーーーーーーー!」
ついに、一人の大人がゴリオンにわしづかみにされ、口に運び込まれようとしていた。
「たっ助けてーーーー!」
「カっカイン兄ちゃん!あそこ!」
「ちっ!」
カインは小さな赤い玉一つを取り出し、その小さな玉は赤い光を放ちだした。
「召喚!炎の第一魔法灼熱の熱風!フレイムブレス!」
カインがそう叫ぶと、赤い光を増した玉から炎が現れ、ものすごい勢いでゴリオンにむかっていき、一瞬で包み込んだ。
「_>*++‘*?!%(〜=)’&%〜〜〜!」
「よしっ!」
「うわー!すごい・・・。」
ゴリオンは黒焦げになって倒れ、ゴリオンにわしづかみにされていた大人は地面に落ちた。
「・・・って〜。た・・・助かった。マジで死ぬかとおもったよ。サ、サンキューカイン君・・・。」
その大人は仕事場のリーダーのダックだった。
「どういたしまして、別にどうって事ないよ。それより無事?」
「ああ、なんとかな・・・。早くお前が来てゴリオンを倒してくれたからな。」
「ああ、あのゴリオン、手加減しといたからまだ死んじゃいないよ。」
「えっ!どうして?カイン兄ちゃん!」
少年とダックはキョロキョロとカインとゴリオンを見ながら不思議そうな顔をする。
「だって、かわいそうでしょ。暴れてたのだって、珍しい人間が怖かったのかもしれないし、あるいは・・・。とにかく、よくわからないうちに殺されてたなんてあんまりだってこと。」
カインは途中難しい顔をしつつも笑って言った。
「・・・そっか、そう言われればそうだよね。」
「・・・だな。」
そして二人も顔を見合わせて笑った。
「相手がゴリオンだったからへんに状態異常の魔法をかけるより、単体攻撃魔法にしたけどちょっとやりすぎたかな・・・っま、これなら大丈夫か。夕方ごろには回復するだろうからそしたら目を覚ます前に山の奥に帰そ。これならこのゴリオンも他のゴリオンに襲われないからオレは見捨てたって事にならない。うん、バッチリ!」
カインはゴリオンを眺めながら言った。
夕方になって、丸太収納小屋にあいた大穴の修復も終わり。カインとダックと少年を残し、ほかのみんなはそれぞれの家に帰っていった。
「召喚、風の第五魔法そよ風の運び、ブリーズワープ!」
カインは今度は白く小さな玉を右手に持ち、前に差し出してつぶやいた。すると、突然ゴリオンの周りを風が取り巻き、消えた。
「ふう、とりあえず山奥に送ったから・・・。」
「しっかし、何度見てもすごいなー。お前の召喚魔術・・・。」
「いやー、まあね!」
自慢げにカインは答えた。その横で少年が不思議そうに尋ねる。
「しょうかんまじゅつ〜?何それ、もしかしてさっきの炎や今の魔法の事?」
「そっか・・・。そーいえばロムは召喚魔術見るのは初めてだったっけ。」
「無理もない、平穏一色のこの村じゃ召喚魔術なんてめったに使わないし、もともと魔玉使いも世界的に少なくて、あまり知られてないからな。」
「ねえねえ、だから何なの〜。」
「ああ、わかったわかった。召喚魔術って言うのは・・・。」
カインはなるべくわかりやすく説明を始めた。
「正確には魔法であって魔法じゃないんだ。この小さな玉に秘められた魔法を召喚、つまり呼び起こすんだよ。ふつうの魔法は己の魔力を炎や水に変えて形にするけど、召喚魔術は魔玉の魔力を使う、だからオレが持っている力は魔力じゃなくて魔法を導く力、魔導力なんだ。つまり魔導力が高ければ高いほどランクの高い魔法を召喚できたり、その魔法の威力も上がるって事。わかったロム?あっ、ついでに言えば召喚魔術を使うオレたちの事を魔玉使いっていうんだ。」
「ん〜、なんとなく・・・。」
ロムは頭を抱えて言った。
「ハハ、ちょっとロムには難しかったかな・・・。」
「なるほど、よくわかんないけどようは魔法みたいなもんだな。ダッハッハ実はオレもよく知らなかったんだ。」
「おいおい・・・(四歳児の頭なのか、この人・・・?)」
カインはロムの頭をなでながら、心の中でツッコミをいれた。
「んじゃ、オレちょっと行かなきゃいけない所あるから・・・。」
「おい、もう日が暮れるぞ。いったい何処行くんだよカイン君?」
「・・・鬼ヶ婆の所。」
「あ、あの恐ろしい婆さんか・・・?」
「・・・うん。・・・じゃね、ロム、ダックさん!」
そう答えると、カインは走っていった。