2、 鬼ヶ婆参上
ここはとある村はずれの小さな屋敷。この屋敷には恐ろしいと有名なお婆さん、鬼ヶ婆が住んでいる。鬼ヶ婆とは薬作りが天才的で物知りだが、少々不良気味で怒ると凄まじいほど恐ろしく、怯えて腰が抜けなかった人はいなかったとか・・・。
コンコン!ガチャ!
「こんばんわー、鬼ヶ婆いるー?ん・・・うわっ!」
カインが鬼ヶ婆の屋敷を訪れドアを開けた瞬間、猫より一回り大きめの何かが飛びついてきた。そしてその何かは、カインに頬ずりし始めた。
「ハハハ、ピロロおまえ元気になったんだ、よかったよかった・・・。うわっちょ、ちょっとやめてって!ハハハ!」
「キュキューイ!キューイキューイ!」
飛び掛ってきたのは綺麗な黄色い毛色、大きな三角の耳、両手足に大きな羽をもち、その羽によく似たしっぽのある小さな金色の目をしたかわいい動物だった。この動物はピロロといって、カインにとってとても大切な友達、いやそれ以上の弟のような存在である。ピロロは先日足を怪我して、鬼ヶ婆に治療してもらっていたのだ。
「まったく・・・。この私の屋敷の玄関で騒ぐとはいい度胸じゃねえかい。」
奥の部屋からバットを杖がわりにした白髪の長髪で目つきが悪い、二頭身ぐらいのお婆さんが現れた。
カインは驚きと少し怯えの入った口調で言う。
「あ、いやその・・・。あっピ、ピロロのやつもうこんなに走れるようになって・・・。本当に助かったよ・・・ありがと、お、鬼ヶ婆・・・・・・うがっ!」
バットの先がカインの顎にヒットした。
「・・・ったく、いきなりフルネームで呼ぶんじゃないよ。っま、今さらオバ様だのお姉様だので呼べって言ってる訳じゃないが、せめて婆様と呼びな!ば・あ・さ・ま!ほら返事は?」
カインはゆっくりと起き上がり、顎をさすりながら答える。
「・・・はい。(ち、ちくしょ〜。っイタ〜)」
鬼ヶ婆はピロロの頭をなでながらカインのほうを見た。
「で?こいつを迎えに来ただけじゃないんだろう?」
「さっすが!やっぱりわかる・・・?じゃあゴリオンが現れた事は?」
「知ってるよ・・・。私の情報網をあなどっているのか?それで、普段は人里に姿を現さないゴリオンがどうして突然現れたか・・・?そんなとこだろう・・・。」
「あたり・・。それでどう思う?おに・・・あっ、いや・・・ば、婆様・・・。」
「フフフ、よろしい・・・。それじゃあ、お前は『セントアニマル』を知っているか?」
鬼ヶ婆は険しい顔をして問いかけた。
「いーんやっ・・・。それで何なのそれ?」
「『セントアニマル』というのは百年に一度現れ、あるルートを通りまた消える伝説の動物だ。」
「あるルート?」
「ああ、そのルートは時期も場所も順番も規則正しく、百年に一度決まってそのルートを通る・・・。いったい何の為に通るのかはわからん。そしてその『セントアニマル』さえ、『セント』のとおり神聖で良い動物なのかさえさだかではない・・・。」
「で?だからそれがどうしたっていうの?」ビクッ!
鬼ヶ婆は鋭い目つきでカインを見て続けた。
「その『セントアニマル』が現れる時期が今で、あるルートの始まりがこの屋敷の裏にあるゴリオンの住む山だとしたら・・・。」
「・・・!」
カインの頭の中でもしかしてがフッとうかんだ。
「まあ珍しい時に珍しい事が起きても不思議じゃないと私は思っている。なんにしろ確かめてみる価値はある。お前の好奇心は人一倍だからね、行くんなら気をつけて行きな!」
「もっちろん!行ってくるよ鬼ヶ婆・・・ぬあっ!」
またもやカインの顎にバットがヒットした。
「だから婆様とお呼び!ったく行くんだかなんだか知ったこっちゃないが帰りぎわに間違ってんじゃねー!ほら行くんならさっさと行きな!」
「わ、わかってるって〜!(イッタ〜・・・)ほら、ピロロ行くよ!」
「死ぬんじゃないよ!カイン。」
「誰が死ぬもんか!」
こうしてカインはいったん家に帰り、夜が明けたらゴリオンの住む森へ出発する事にした。
「・・・にしてもカインのやつ、ゴリオンを一撃で・・・。」