1、森の少女

 

 「くぅ〜気持いい〜!」

 四方どこを見ても木、木、木の深い深い森の中を進む魔玉使いの少年カインと聖獣ピロロ。二人はローグ村を出発して5日経った今、村より南西にあるというカンド村を目指していた。

 「今日は天気もいいし、風の匂いもいい。やっぱ森の中って落ち着くよね〜。」

 「キュキューイ!」

 大きく伸びをする。深い森といっても木々は広葉樹が多く、太陽の光を綺麗に反射しているので比較的明るい。

 「でもカンド村って聞いたとおり本当に森の奥なんだ〜、けど何でこんなところに村なんて作ったんだろ。これじゃまともに交易だって・・・」

 ふと言葉を止めた。ピロロが不思議そうにカインの顔を覗き込む。

 「ん・・・何か、来る?」

 カインは一点に目を凝らしていた。何か小さなものがこちらに向かってくる。とても小さく見えるがもの凄い速さで・・・

 「っんな!ナイ・・・ッ!」

 認識したと同時に後に反り返ってそれを回避。それは見事に真後ろの木に突き刺さった。

 「うっくあ!・・・はぁ、ナ、ナイフ?」

 起き上がって腰をさすりながら飛んできたものを再度確認する。それは明らかにナイフ以外の何物でもなかった。心配そうに鳴くピロロの頭を撫でる。

 何故こんなものが飛んできたのか?もしかして村の防犯システムとかだろうか?だが罠らしき物はまったく無かった・・・だったら、いったい・・・

 「おーい、大丈夫?こっちの方にナイフ飛んでこなかったー?」

 分析していると先ほどナイフが飛んできた方向から誰かの声がした。

 振り返ると誰かがこちらに向かって走ってくる。体格からして子供だというのがわかった。赤い鍔つきの帽子をかぶっている。その子は息を切らして二人のもとに着く。

 「飛んできたけど・・・ほら。」

 「えっ・・・!」

 カインはナイフの刺さった木を指した。帽子のその子はハッと頭を上げて、次には顔を青くする。

 「うわー、やっぱこっち飛んできちゃったんだ!わー、ごめんなさい!怪我は?どっか怪我とかしてない?あたしの投げたナイフで迷惑かけちゃったよ〜、本当にごめんなさい!」

 必死に大きく頭を下げて謝る、何度も何度も。

 「別にいいよ、オレ怪我なんてしてないし・・・それより君があのナイフ投げたの?」

 カインは笑って制した。あまりの謝りように何とか話題を変えようとする。実際鍛えた反射神経のおかげで怪我一つしていないし、それにここまで謝られたらハッキリちょっと困ってしまう。

 その子はゆっくりと顔を上げた。

 年の頃は自分と同じくらいだろう、大きな黒い瞳に茶色の髪、帽子と同じ赤のノースリーブにオレンジの手袋をはいた一見男の子のような少女だった。

 「うん、あたしが投げたの。けど修業してたら的外しちゃって・・・」

 恥ずかしそうに苦笑いする。

 「そっか、ナイフ投げの修行中だったんだ〜。けど凄いね、あの飛距離はなかなか・・・」

 「まあね!そりゃあ毎日修行してるし、コントロールだって・・・今言っても説得力無いか・・・」

 恥ずかしそうにしたと思ったら、自信満々で語りだし、そうかと思えば自らの言葉でガッカリする。ころころと表情が変わる様子に思わず笑みがこぼれる。

 「アハハ、じゃあ『今』ってことはいつもは違うってこと?」

 「うん、もっちろんそうだよ!いっつもは的のど真ん中なんだから、さっきみたいに外すことの方がずっとずっと珍しいの!」

 「ふ〜ん、そうなんだ〜・・・まあ君の言うとおり今言っても説得力ゼロだけどね。このままだとオレ言い訳ってとっちゃうよ?いい?」

 この手の相手はからかいたくなる性分のカイン。ピロロも「またか」というようなため息をつく。どうもこう真っ直ぐな人こそからかい甲斐があって楽しい。カインの場合からかいというより挑発じみているが・・・。

 「うぐ〜、だったら見せてあげる!どっかにいい的は・・・」

 案の定、彼女はのってきた。どこかにいい的は無いかとキョロキョロ見回す。

 旅立ち前に2度もリアクション裏切りされたのだから、これだけのってくれるとはけっこう嬉しかったり、楽しかったりする。

 「あっ!」

 「・・・っ?」

 ニコニコと見守っていると、突然少女は声を上げた。的でも見つかったのか・・・?

 しかし視線は太陽を向いていた。太陽は丁度真上の位置で、ギラギラと照っている。

 「うっそ、もうこんな時間!?・・・急がないと!」

 急に慌てだし、木に刺さったままだったナイフを抜くともと来た方向へ駆け出した。と、思い出したように振り返る。

 「ごめん、ちょっとあたし急がないといけないから!ホントごめんね、でも言い訳なんかじゃないんだからね!じゃあ!」

 「え、あ、ちょっと・・・!」

 嵐のごとく少女は走り去っていった。

 (村の子・・・だよね、こんなところにいるんだから。せっかく村のこと訊こうと思ったんだけどな〜・・・)

 残念そうにため息を吐く。いつ着くとも知れない村を目指して、ずっと森の中を歩き続けるのはハッキリ言って気が遠くなる。だが少女に出会ったということは案外近いのかもしれない。

 「にしても、ちょっと変わった子だったね、ピロロ。まあ、村に着いたらまた会うかもしれないけど・・・」

 気を取り直して歩き出した。ピロロもカインの隣を歩く。

 「・・・けど何でナイフの練習なんてしてたんだろ・・・?」

 

 後にこの出会いはカインにとって大きな出会いとなる・・・

 

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