2、攻防戦
「?>*P{‘P{=〜〜=|=}*?*};:@。*+;@=!」
「ていっ!」
ザシュッ!
ナイフが巨大な緑のつるを捕らえ、つるは長身の木に打ちつけられる。
「あ〜も〜、この森入ってからずっとこればっかだよ〜!」
「ティクさん気をつけて下さい、まだいっぱい・・・あっ!」
大きくうねった巨大なつるがティクの背後に迫る。
「くっ!」
右に大きく跳躍し、体をひねって体制を整えると同時にナイフを放つ。ナイフは綺麗につるの先を射抜き、同じ木に貼り付ける。
「よしっ!ピロルは大丈夫?」
「はい!」
「じゃあ、このまま一気にいきますか!」
ティクはナイフを3本一緒にホルダーから抜き取り、構えなおす。ピロルも隣に並んで顔を引き締めた。
今度は四方からつるが飛び出す。ティクはナイフを手の中で回転させてつるの一本を切り裂き、もう片方の手に持った2本のナイフを背後に回る2本のつるに投げつける。切り裂かれたつるはなおも迫ろうとするもピロルの炎に妨げられていた。
「残り1本!」
ナイフを利き手に持ち替えつつ大きく背後を振り返る。
ゴオッ!
「えっ・・・うひゃあっ!」
予想以上に速い動きで眼前に迫っていたつるを寸でのところで空中へ回避する。しかしつるは真っ直ぐにティクを追尾してきた。
「くっ・・・(やば、空中じゃ追いつかれる!)」
キュッと唇を噛み、ナイフを握る手に力を込める。
「まだ油断するには早かったね!」
「えっ・・・?」
声に反応すると同時になにか強い力で引き寄せられた。そしてすぐ目の前を巨大なつるがかすめていく。まさに今さっきティクの体が存在していたところだった。
「オレってばナイスタイミング。」
ふいに自分が下ろされた場所は木のやや太い枝の上だと認識する。そして腕を掴まれていることも。
「あたし油断なんかしてないよ〜だ。ちょっと焦っただけ!」
ちょっと悔しくて反論してみた、自分を助けてくれた少年に。
「はいはい、じゃあ今度は冷静沈着に行動してみる?核が来るよ。」
かるくあしらう少年の視線をたどると、つるよりも巨大な何かがものすごい勢いでこちらに向かってくるのが見えた。
「まずはあれを何とかしなくちゃね、呼んでくるの苦労したんだから〜。ピロルー、こっちに上がっておいで!潰れるよー!」
「はーい、今行きますカイン様!」
ピロルは軽やかなステップでカイン達とは反対側の枝まで登った。
「やっぱまずは核を倒してこのつる何とかしないと、いい加減邪魔くさいしね〜・・・いける?多分あのあたりだと思うけど・・・」
「もっちろん!あそこらへんを切り裂けばいいんだよね?それくらい大丈夫だよ。」
どんどん迫ってくる巨大な物体は近づくにつれブヨブヨと体をうねらせているようだ。つるの根元、根源であるそれは大きな円形で進行方向側表面のある一点が顔のようなものを浮き上がらせている。それは妖怪といっても通じそうなくらいの気味の悪さだった。
「気持ち悪い・・・」
「ほら来るよ!準備は?」
「まっかせて!」
勢いよく枝を蹴り、核の中心と思われる部分へ一直線に突っ込んでいく。途中進路を妨げようとするつるを切り裂き、貼り付けながらどんどん目標へ向かった。
「これで終わり!」
軽い身のこなしであっという間に眼前に迫り、一気にナイフを振り下ろす。
ザシュッ!
「*+‘>>{{P*+>*L(%(N+`*_+`{}><:;\/[l]}=〜〜〜〜!」
核は何とも言いがたい叫びを上げ、もがくようにバタバタとつるを振るうが、どんどん力を失って次々につるが地面に横たわっていった。
「ティクさんすごいです!」
「えっへん!見直した〜?」
胸を張ってVサインをする。本当にこの自信家ぶりは自分の兄貴分を思わせ、ピロルはつい苦笑い。
「見直すのもいいけど・・・」
ズズン!
ティクは背後に重たい音を聞き振り返ると、そこにはつぶれた核とその上に立つカインの姿があった。
「ちゃーんと最後まで確認してからね?」
ニッコリ笑うカインに苦い表情を向けるティク。
「なんかおいしいとこだけ持っていかれた気がする・・・」
「そお?」
踏み潰された核の中心、顔の口らしき部分からは鋭くて細い針のようなものが出ていた。最後のあがきにティクを狙ったものだったのだろう。ティクはそれをじっと見つめながら言った。
「また助けられちゃったね、さっきも危機一髪だったし。」
「まあいいんじゃない?同じパーティー組んでんだからさ・・・」
「・・・そだね、ありがと助かった。」
「どういたしまして。」
カインは何か小さなものを手の中で遊ばせながらティクに近づく。ティクが不思議そうに覗き込むとそれは何か機械の部品のようなものだった。
「ピロルもこっち来て。いいもん見つけちゃった・・・さっき倒した奴からね。」
「えっ、さっき倒したってあいつのこと?でもこれ機械っぽいよ!」
「そう、でも何となく理解できそうじゃない?本来ありえないようなモンスターの出現に、そいつからさらにありえないような機械の部品の発見、どう考えたっておかしい・・・」
「こんな機械なんて人工的なもの、人為的に持ち込まれでもしないと変です。」
「でも、あたしたちがここに来るずっと前の昔に持ち込まれたものが今頃になって発動とか・・・」
「それはなさそうだよ、これ魔力回路が使われてる。魔力エネルギーを機械に取り込む技術なんて最近の最近、そんな古くからある技術じゃない。」
カインは小さな機械の蓋をこじ開け、太陽にかざしてみる。導線が太陽の光に反射して鮮やかなグラデーションを彩っている。
「じゃあ、最近あたし達以外の人間がこの森に侵入したってこと?しかもそいつらのせいで森に異変が起きてるの?」
「そうなるんじゃない?」
バオオオオーン!
突如大きな雄たけびが森に響き渡った。それは立て続けに何度も何度も響く。
「何、今の!」
「これは獣の、それかモンスターによる雄たけびです!」
「まさかさっきの衝撃で森全体のモンスターを刺激しちゃった?」
雄たけびは鳴り止まず、さらに地響きまで起こり出した。近くの木がなぎ倒される。
バオオオオーン!
「き、来た・・・っ!」
「とりあえずどっか隠れるよ!」
倒れた木の衝撃で砂煙が舞う中、カインはティクとピロルの二人を抱えて近くのやぶに滑り込む。それと同時に今まで立っていたところに大きな拳が振り下ろされた。
「あっぶな〜、ちょっと遅かったらゴリオンに見つかってペッチャンコだったよ。」
「もう!これから犯人捜さなくちゃいけないのに〜!」
「ああ、それなら・・・」
言いかけたところで今度は逆方向からゴリオンの拳が向かってきた。寸でのところでゴリオンの脇を抜け、二人を抱えなおすと大きな木の根元まで走りこむ。
「これじゃ一体ずつ相手してる場合じゃない!深追い無用だね。」
「で、でも、だからって、あたし自分でちゃんと走れるから!降ろし・・・っ!」
「こっちの方が都合がいいの!いまにわかる・・・」
抗議の声を漏らすティクをあしらいつつ、横から伸びるゴリオンの腕をかわす。
ピカーーー!
突然先ほど拾った機械が光を放ちだした。装甲に紋様のようなものが浮かび上がる。
ゴリオンは大きく拳を振り上げ、瞳に映る小さな人間達に向かって振り下ろした。
ドオン!
地面を砕く音が辺りに響く、しかし砕かれたのは地面と周辺の岩だけだった。
彼らの姿はすでにそこには無かった。
ドスン!
「いった〜・・・」
鈍い音とうめき声。カイン、ティク、ピロルの三人はさっきの場所ではない何処かに落とされた。
「ここ何処ですか〜?」
「っていうか何が起きたの?いきなり光に包まれたと思ったら・・・」
ピロルとティクはキョロキョロと周りを見回して、疑問の表情を浮かべる。ふとティクの視線が釘付けになった。
「これって・・・あの、大きな岩山・・・?」
「の、目の前に落とされたらしいね・・・さっきのワープ魔法で。」
「え?」
眼前にたたずむ大きな岩山、あの夢にまで見た、憧れだった聖羅の森の中心。それを目の当たりにして目を丸くし、さらに落ち着いた口調で淡々と喋るカインに目を丸くする。
「だから三人一緒の方が都合がよかったのさ、ワープ魔法が発動されたとき一緒に行けるようにね・・・ほら、あそこの誰かさんの魔法でさ。」
カインの視線をたどると岩山をバックに遠くで誰かが立っていた。その誰かがこちらに近づいてくる。
「君たちか、僕らの研究を邪魔してくれちゃってるのは・・・」
声はやや低いながらも少年らしさを残し、背格好から男のしかも自分達より4,5歳年上なのが分かった。髪は薄紫色でザンバラに着られ、白衣に似たコートを肩に掛けている。
「ま、あれだけ森を騒がされちゃその当事者をなんとかしなくちゃいけないよね?あれ以上めちゃくちゃにされちゃ研究のいい迷惑だし?機械ってのはデリケートって聞くからさ。」
挑発的に男から視線をずらさずに語りかけるカイン。
「ほう、そこまでわかっててやってくれたんだ。つまりはなからここに来ようと、そういうことだったってことかな?最初から・・・」
男のほうも静かに返す。
「だってあのつるのモンスター動きが機械的っていうか、よく見たらつるの動きが規則性のあるものだったから、どっかでプログラムされてるのかなって思ってね。まあワープ魔法はされるって考慮はしてたけど、はっきり言ってこんな本人の目の前とまでは想像してなかった。手間が省けたってことかな・・・?」
「ガキのくせに一丁前に・・・生意気な子供は嫌われるよ。」
「そうかな、オレ割と世渡り上手な方だからご心配なく・・・」
続けられる言葉の攻防、二人の間に張り詰めた糸があるようだ。ティクもピロルもただじっと見守っている。
「そっちの研究には迷惑行為かもしれないけど、こっちもいい迷惑なんだよね。」
「ふん、僕らの偉大な研究に比べればたかが・・・」
「何がたかがだ!おかげで会長は怪我するとこだったんだよ!」
ティクが痺れを切らし、声を荒げた。怒りをあらわにし、ナイフを向ける。
「威勢のいいお嬢さんだね、でもナイフは下げてくれないかい?僕だってあまり手荒なことはしたくないんだ。」
「でもこのままじゃ帰さないんでしょ?」
「帰る気もないんだろう?」
再び両者の睨みあう沈黙が流れた。
カインは静かに魔玉をかざし、白衣の男に向ける。
「わかってるんなら洗いざらい吐いてくれる?ここで何してんのかさ・・・」