4、 魔玉対魔法
ドオオオン!ズドド!ドガーン!
ゴリオンの山の中腹では激しい衝撃音が立て続けに響いていた。
ハアハア・・・
ハア・・・ハア・・・
その激しい衝撃音の中、荒い息づかいが微かに聞こえてくる。
「そろそろあきらめろ、そのうち・・・いや、近いうちにもたなくなるだろう。」
「ハハ、お前ほどじゃないさ魔法使い・・・。魔法使いは自分で魔法を作るから魔力と精神力、この二つの力を同時に多く消費するんでしょ?」
「っ!」
「つまり長期戦になればオレの方が有利ってこと。」
「それまでもてばの話だろう!メテオウォーター!」
ライグはそう言い返すと攻撃を仕掛けてきた。
「召喚!氷の第四魔・・・(くっ、呪文が追いつかな・・・!)うあっ!」
ズドドドドドドーン!
ものすごい衝撃音が響き渡った。
「ふっ、呪文が長い事が魔玉使いの欠点だな。スキやロスが多く防御も遅れる。」
ライグは軽くあざ笑うように言った。
砂煙がモクモクと立ち込めている。と、その砂煙の中からうっすらと人影が見えた。
「ケホッ、そのわりにさっきから・・・クリーンヒットは、ゴホッ、ないんじゃない。」
人影はカインだった。多少ふらつきながら姿を現し、途中せきこみながらも笑って返した。
「ほう、呪文のロスをその運動神経で補っているのか。」
「まあね、ちょっと自信ありなもんで・・・つぅっ、(とは言っても直撃受けてないってだけでダメージは受けてるんだよね。あいつの攻撃速いから防御もままならないし・・・ちょっとやばいな)」
カインはちらっと目だけ動かして下の森の方を見た。
「ならば!」
ダッ!速い!
ライグが強烈な踏み込みで突っ込んできた。そして丁度カインの三メートルほど前のところで飛び上がり、空中で逆さになった体勢で杖を一回転させ、呪文を唱えた。カインはまだみじろぎもできずにいる。
「クリムゾンレーザー!」
カインに向けられた杖の先が赤い光を放ったかと思うと真紅のレーザーが真っ直ぐカイン目掛けて撃たれた。
「くっ!(至近距離での攻撃に切り替えたか・・・!)」
ギリギリのところでカインは避け、レーザーは地面に当たった。
ライグはそのまま宙に浮いた状態で紅いレーザーを軸にカインの後をとった。
「ライトニン・・・」
「ちっ・・・!だあっ!」
バシッ!
呪文を唱え終わるか終わらないかという時、カインは両手を地面につき、そして思い切り地を蹴り上げてそのまま腕を支えに蹴りを放った。カインの後を取ったライグのさらに後からの蹴り攻撃。ライグは不意をついたはずが逆に不意をつかれた後方からの首筋を狙った蹴りを、とっさに身体をひねりなんとか杖で受けたが、空中での攻撃にバランスを崩した。
「ぐっ!」
「召喚!炎の第一魔法灼熱の熱風!フレイムブレス!」
そしてバランスを崩したところを攻撃タイプの召喚魔術で攻撃。とっさにシールドをはったライグだったが、宙に浮いた状態のままだったので攻撃を防いでもその勢いは防げず、下の森の近くまで吹き飛ばされた。
(くっ、身体能力との連係でロスを!)
ドカッ!
「よしっ!追いつめた。」
「フン・・・何が追いつめただ・・・。」
ライグは木に衝突した身体をよろめかせながら立ち上がり、カインを睨みつけた。
「オレを森の近くの追いやったことにより、致命的な攻撃をできなくなったのはむしろ貴様の方ではないか。」
カインは顔色を変えず前に進み出る。
「貴様の得意属性は魔源気からして炎属性なのだろう。」
魔源気とは、カインやライグの様な魔力に関わる者全てが持っているもので、それは個人個人で違うものの生まれつき決まっており、わかる人にはわかる特有の気配のことである。特定の属性についての魔法や魔力に対する抵抗力、レベルがほかの属性に比べて高かったり上がりやすかったりする。ちなみにこの魔源気を持つ者を全て魔気族という。
ライグが睨みつけるなかカインは近くの木に片手をついて少し余裕と自身を持った口調で言った。カインの目は真っ直ぐライグを見て、それこそ不安や怯えなど全くない自信に溢れた目をしている。
「何言ってんの、オレの得意属性・・・これだよ。」
「・・・っ!」
ライグは辺りの静かなざわめきに気がついた。木の葉が風を受けて宙を舞い、その木の葉に混じって小さな花びらも舞っている。そんなよくありそうなことなのだが、どこか空気に落ち着かない様な違和感を感じる。
(これは・・・魔玉に魔導力を込めるとき、普通の時と違う大量の魔導力によって周囲にも影響をもたらす・・・高等召喚魔術の前兆!・・・では、本当に奴は!)
高等召喚魔術の発動を覚り、素早くその源であろう森から離れようと踏み出した瞬間、ライグの目の前にカインが現れた。
「くっ!」
「甘いよ!召喚!樹の第三魔法舞い踊る樹木の妖精!ウッドフェアリーダンス!」
ライグの一瞬のたじろぎをつき、一気に呪文を唱えた。
緑色の閃光を瞳いっぱいに捕らえた瞬間、その魔法の効果は現れた。
「ぐっぐあぁっくぅっ!」
頭の中に直接衝撃が伝わってくる、グラグラする。おもわず呻き声をあげた。
痛む頭を抱えながら顔を上げ、まぶたをこじ開ける。目に映るのはただひたすら不規則に舞う木の葉だけ、それが本当にそう動いているのかただの目まいなのか判らない。
頭のグラグラは増し、平衡感覚も怪しくなった来た。『世界が回る』という表現はまさにぴったりだ。
それを後押しするように周りの木々がざわめきをたてる。その音ですら耳を伝って脳を刺激する。
「ぐぅっ!」
地面に手を突いたものの、そこが本当に地面なのか判断も難しい。
(近くに奴の姿は無い、どこへ行った。いや、オレが完全に術中はまってしまったのか。しかし、この魔導力・・・)
「くっ!」
何かを考えようとすると、さらに頭を衝撃が襲う。