5、 樹の第三魔法フェアリーウッドダンス
「う〜ん、ちょっと可哀想だったかな・・・?けどまあ、これぐらいやんないと本当にヤバかったし、うまくいってよかった。」
カインは腕組をし、眼前の森を眺めながら呟いた。
その視線の先の森は風が渦巻き、揺らめいて見える。
樹の第三魔法ウッドフェアリーダンスとは、相手を森の結界に閉じ込め、五感から直接頭を刺激する高等状態異常魔法である。この魔法の召喚条件は相手を森のそば、もしくは中に追い込む必要がある。
「よし!今のうち今のうちっと・・・。」
魔法のかかり具合を確認し、頂上に向かって歩き出そうとした瞬間、ふとカインは何かを感じてサッと後を振り返った。
ビュゴッ!
「くっ!」
真紅の光線が振り返ったカインの左頬をかすめた。光線はカインのさっきまでの進行方向を貫き、先にあった岩を破壊した。
「なめるな・・・オレは・・・!」
「うっそ!まだ動けるの?」
カインは傷ついた頬を押さえ、目を丸くして驚いた。その視線の先には先ほどの光線を放った張本人、ライグの姿があった。本来、樹の第三魔法ウッドフェアリーダンスの術にかかると、歩けなくなるどころか立つのも難しい。しかしライグはよろよろで立ってはいるが、しっかりと魔法を放ったのだ。
「オレはスカイレイク!・・・セントアニマルを護る者!」
ライグの眼光が変わり、獲物を捕らえる獅子のごとくカインに突っ込んで来る。
「おおおおおおお!」
「くぅっ!速さ増してんじゃないの?目ぇ違うし!」
そんな泣き言いいつつもカインはライグの続けざまの攻撃に必死で応戦する。
ライグの攻撃は杖の先を魔法で強化し、棒術的な接近戦で攻めてくる。それでもやはり術の効果は効いているらしく、強化魔法も通常より効果は出ていない。しかし、動きは以前よりも速く、今の気力と意地で戦っている彼の精神はとてつもないことに変わりはない。
「うおおおおおお!」
「くっ!(これじゃ呪文言うひまがない)」
カインはライグの突きを右腕で受け流した。
「おおおおおお!」
「え、うあっ!」
しかしライグは杖を反転させ、その先がカインの脇腹に直撃し、カインは衝撃で飛ばされた。
「ぐうっ、いった〜・・・っ!」
痛む脇腹を抱えこらえるカインの目前にライグが迫る。
「うくっ!」
ドカッ!
カインはすれすれで横に転がりかわした。
ライグの杖が地面にあたった衝撃で埋もれて動きが鈍くなっている隙に高速で思考を巡らせる。攻撃を受けた脇腹が動いた衝撃で痛む。
(くぅっ、さっきの攻撃思ったより効いてるみたい・・・あんまり派手に動き回れそうないな。けど、あっちも相当堪えてるだろうから、一発何か、攻撃力は弱いけど一番呪文の短いやつしかない!)
再び自由になった杖は強化魔法をさらに上乗せされてカインに迫る。
「おおおおおお!」
カインも魔玉を握り締めて構える。これはちょっとした賭けに近かった、動きの速くなったライグに攻撃が当たればいい、しかし外した場合いくら相手が弱っているとはいえ強化されたプロボクサー並みの一撃を受けることになるのだから、自分はただではすまないだろう。カインはさらに握る力に力を込めた。
ライグが目前に迫った。
「(うまくいって!)召喚!・・・っ!」
「・・・っ!」
ヒラリ・・・
激突寸前の二人の前に金色に光る羽が一枚、ひらひらと舞い降りた。
あまりの輝きに二人とも身じろぐことも出来ず、ただ呆然とその輝く美しい羽を見つめる。
「これは・・・?」
カインは突然の出来事に呟き、羽に釘付けになっている視線をさっきまで獣のように自分を追い、衝突するはずだった相手、ライグにやる。
彼もまたついさっきまでの気迫に満ちた獣のような面影はなく、カインと同じようにただ呆然と舞い降りた羽を見つめていた。
と、突然再び彼らの頭上に眩しいほどの光が現れた。そして次の瞬間、それは舞い降りた。
「セントアニマル・・・。」
たとえ見たことは無くとも何故か自然とその名前が出た。