3、我が道を行く者たち
「えっと、二人はお知り合いで・・・?」
村長はやっとその疑問を切り出した。びっくりオロオロはこの人の特技かもしれない。
「はい、まあ・・・」
知り合いといっても、今日会ったばかりで名前も知らない子なのだが・・・
「うん、そうかな。今日会ったばっかなんだけどさ、あたしがいっつもどおりナイフの修行してたときにね!」
ハキハキとした口調で説明する。しかし・・・
「あれ、ティクは確か道からかなり離れたところで修行していたのでは?何故・・・」
「え、あ、それは・・・えっと・・・」
結果自ら墓穴を掘る形になった。とても失敗したナイフが飛んだ先に偶然居あわせていて危機一髪を体感させたなど、うまく説明しようがしまいが立場が悪くなることにかわりはない。
「あの、それはぁ・・・」
「どうしました?」
詰め寄る村長。こういうとき口が回ってくれないタイプらしい、追い詰められた顔をしている。
「だから、その、あたしがナイ―――」
「いや〜、ちょうどこの村に向かっていたら威勢のいい声を聞いたんですよ。だから何かな〜って思って行ってみたら修行中の彼女とバッタリ!ってことだったんです。まさかあんな森の奥で女の子の声を聞くなんて思ってなかったし・・・僕けっこう耳いいんですよね。」
「え・・・っ!」
見ていられなくなり、助け舟を出した。カインの方はけっこう弁が立つ。
ティクと呼ばれた少女は予想外のカインの発言に目を丸くして戸惑う。それを見てカインは「合わせて」と言うように「ね?」と付け足した。
「おおそうだったんですか。ティク今日もお疲れ様・・・・・・おっと、冷えてきましたね。では窓を閉めてきましょうか・・・」
納得したようで、村長は開かれたままだったあの大きな窓を閉めに行った。
ホッと一息した。
「あ、えっと―――」
「そういえば、まだちゃんと自己紹介もしてなかったね。オレはカイン・ヤグ、魔玉使いなんだ。で、こっちはピロロっていって聖獣ね。よろしく!」
「キューイ!」
カインは話を逸らすように簡単に自己紹介した。ピロロもカインに合わせる。
「あ、あたしはティク・マリセル。こっちこそよろしく!」
最初は戸惑いを見せたものの、少女ティクも笑顔で自己紹介を返した。初めて会ったときは男の子のようだったが、笑った顔は女の子である。
「ティクちゃんかぁ・・・。ところで何でナイ―――」
「ところでカイン君、もう今夜の宿はお決めかな?」
「「わっ!」」
いつの間に戻ってきたのか、すぐ後には村長の姿があった。
「宿ならまだですけど・・・」
「そうですか、うちに泊めてあげたいのはやまやまなのですが、あいにくやらなくてはいけない仕事がありますので・・・ですからティ―――」
「だったらうちに来なよ!これでも村で唯一の宿屋やってんだよ。」
村長の言葉を遮ってティクが前に出た。
「そっか、じゃあお世話になろっかな。」
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
流石宿屋の娘だ。だが彼女の場合営業スマイルではない素のスマイルだろう。
「これで決まりですね。ではカイン君明日またお話しましょう、ティクも明日でいいね。」
「え、村長?」
いつの間にか話が一気に進んでしまったようで、思わず聞き返した。
確かに窓から射す光は先ほどより暗くなっているが、ちょっと急すぎるのでは・・・第一まだ肝心なことも何も聞いていない。
「大丈夫、セントアニマルが来るまでまだ時間はある・・・」
「え・・・?」
村長はそう言い残すと、ティクにカインを頼むと合図した。そしてティクもまた任せてと返した。
「それってどういう・・・」
村長はニッコリ微笑み「また明日」と付け足した。
「さ、行こ!こっちだよ。」
「あ、うん。」
こうしてカインとピロロはティクのうち(宿屋)に厄介になることになり、明朝まで少々疑問を残しつつもティクに案内され向かった。
ティクのうち(宿屋)は、外見こそ一発で宿をやっているとはわからないほど普通の家っぽいが、裏には少し大きめのテラスがあり、長椅子がいくつか置いてある。中はけっこうそれらしい雰囲気だった。
「う〜ん、いいお湯だった。」
夜も深まり月の光が眩しいほど光っている。
カインはマントとローブを取ったタンクトップ姿でテラスの長椅子に座っていた。
「月もこんなに綺麗なのにピロロの奴もう寝ちゃってるなんてもたいないな〜、けどピロロってば朝まで絶対に起きないからなー。」
空は一面星空で、夜にしては明るすぎるのではと思えるほどだ。今日は満月。
旅立って5日目が終わろうとしている。久しぶりに外の世界に出てみたが今のところそれほどドキドキするようなことに出会っていない・・・
「・・・いや、出会ってた・・・ハ、ハハ」
昼間のナイフ騒動を思い出した。あれは鈍りそうになっていた体を一瞬で取り戻させてくれた気がする。スピードもなかなかだった。
「スピードっていったら、ライグにもまた会うことになるのかな?」
記憶に新しい素早い攻撃。銀髪の守護者はやはり次の場所にも来ているのだろう。
だとしたらまた戦うことになるのか・・・
「やだな〜、痛いし。あいつけっこう強いんだもんな〜。」
脇腹に手をやる。鬼ヶ婆の薬のおかげで本当に1日で治った傷だが、思い出すと少し痛む。あんなものをまた受けたくはない、何か作戦を考えておくか・・・
「素早い攻撃、か。オレもあのスピードにやっと着いてけるぐらいになっちゃったね。」
やはり体が鈍っているのかもしれない。前はもっと速いスピードに着いていけた。
もっと速い動き、もっと速い攻撃、もっと速い反応、それをずっと見てきたはずなのに・・・
ずっと近くで見て強くなったはずなのに・・・
「あいつは今どこで何してるんだろ・・・もっと強くなってんのかな?」
『旅先でもしあの生意気なガキに会ったらよろしく言っといで。』
鈍ったのは体か、感か・・・