2、蒼い瞳の少年
静かに睨み合う少女と3人の男達。
「嬢ちゃん、いまさら謝ったって遅いぜ・・・?」
「現場は見られるわ、ガキは助けられるわで、こっちにとっちゃ最悪なんだよ。」
「そうだ、お前さっきのガキと知り合いみたいだな、じゃあ・・・」
そう言いかけ、いきなりリッカに向かって踏み込んできた。
「お前に人質にでもなってもらおうか!」
「いやっ・・・!」
掴みかかろうとしてきた男からサッと身をひねって避ける。そして後ろ向きにステップで間合いを取った。
「私は人質になんかならない!」
杖をかまえて男達に睨んでみせる。
「ふん、いやでもなんでもなってもらう!」
リッカの睨みを無視して今度は二人がかりで踏み込んできた。一人は右斜めから、もう一人はジャンプして左斜め上空から。リッカは杖を強く握り、気を引き締める。
「シャインショット!」
シュン!
瞬時に杖の先に光が集まり、向かってきた二人に放出された。
「「ぐっ・・・!」」
あまりの速さに避けきれず、直撃を受けうめき声を上げる。
「光属性は光の速さを持つ。私の得意属性は光・・・あなたも来る?」
リッカは少し離れたところで向かってくるでもなくたたずんでいる、残った男に威嚇して問う。しかし男は笑って返した。
「ふっ、光の魔法か・・・確かにやっかいだな。だが、あいにく俺も・・・魔法使いってやつなんでね!」
男の右手が光だしリッカに向けられた。
光は赤くなり、玉状になった。一瞬の後、それは腕の先のターゲットへ向けて放たれた。
「うくっ・・・!」
リッカはとっさに杖に魔力をこめ、かろうじて受け流す。そして意を決したように視界に捕らえた魔法使いに杖を向ける。
「シャインショット!」
杖の先から光の塊が放たれた。真っ直ぐ目標の魔法使いに向けて・・・そのはずだった。
しかし・・・!
「きゃあああああ!」
次に視界に捕らえたときには自分がその光の塊を受けていた。
(どうして・・・?)
リッカは衝撃で後に飛ばされた。体を岩場に打ち付ける。
「あぐっ・・・!」
全身に痛みが走る。
少しもうろうとする頭を抱え、痛みに堪えながら体を起こす。
「アッハハハハハ!自分の魔法はどうだ、効いたか?アッハハハハハハ!」
魔法使いは高笑いをしながら、リッカに目を向ける。
手には何か大きな鏡のようなものを持っていた。
「魔反鏡・・・?」
「ああそうだ、よく知ってたなガキ。その名のとおり魔法を跳ね返す魔法の鏡よ!」
魔反鏡はどのような魔法もその性質のまま跳ね返す鏡で、世界中でもかなり貴重とされているアイテムである。
「どうして、それが・・・?」
「アッハハハハハ!光の速さの魔法なら帰ってくる速さも光速だ。さあ、どうする?打ってもいいんだぜ?」
「ほんと光の速さたぁ避けるのは困難だよなぁ。おまけに、光属性ってのは本来回復に適した魔法属性だ。攻撃系の魔法作るのもちょっと大変なんだって?」
「俺たちこれでも知識だけは豊富でなぁ・・・アッハハハ!」
先ほどリッカの攻撃を受けた二人が身を起こし、痛みを堪えているリッカをあざ笑う。
「くっ・・・。」
必死に思考を巡らせて策を考える。どうにかしてこの状況を変えなくては、自分はやられ、エリーにも再び火の粉がかぶってしまう。
(どうしよ、このままじゃ・・・)
「さあ、どうしたさっきの威勢は!ま、このまま素直に人質になってくれりゃー・・・。」
キッとリッカの目は再び魔法使い達3人を睨みつけると、杖に力を込めて呪文を叫ぶ。
「ブレイズファイア!」
ビュゴッ!
3本の炎の槍が上空を舞い、男達を上から襲う。
「光ではない属性の攻撃か・・・だが、甘い!」
また魔反鏡で跳ね返そうと上へ鏡を向けようと腕を上げる。しかし、その瞬間大地がグラッと大きく揺れたかたと思うと、一部の地面が盛り上がった。
「なっこれは・・・!」
「上のやつは、魔反鏡をそらせるための囮か!」
「うがぁっ!」
盛り上がった地面が魔法使いの一人のみぞおちを突いた。
「よしっ!このままもう一回・・・。」
「なめんじゃねぇぞ・・・このガキャー!」
うまくいった作戦にホッとするのもつかの間、みぞおちを突かれた男がよろめく足取りを無理やり踏み込んできた。目は怒りに満ち、すでに手には魔力が込められている。
「・・・っ!」
リッカは息を呑んだ。
一瞬の油断による反応の遅れ、先ほど受けたダメージ、通常のものより多く魔力を使うワープ魔法での魔力の消耗・・・避けきれない、防ぎきれない!
男の魔力のこもった拳がリッカの目前に迫る。
リッカはギュッと目を瞑る。
「うおおおりゃぁー!」
ビュゴッ!ズズン!
山に轟音が響く。土煙が舞い、岩の崩れる音が余韻のように聞こえる。
確かに拳に手応えはある、しかしそれは少女ではなく硬い岩の感触だった。
「チックショー、どこ行きやがった!」
自分はあの魔法使いの拳を受けるはずだった、確実に。
しかし気づいたときには自分はその場にはいなかった。視界に入ったのは魔法使いではなく空だった。
体に新たな痛みは感じない、ただ分かるのは自分が誰かに抱えられているということだけ。・・・いったい、誰に?
そしてそっと地面に下ろされ、座り込む。上から声が降ってきた。落ち着いた口調で、低くも高くもない少年の真っ直ぐな声。
「怪我は・・・?」
「えっ・・・あ、大丈夫・・・です。」
突然の問いかけに少し焦って答えてしまう。
「そうか・・・。」
少年はリッカの返答を聞くと、先ほどまでリッカと対峙していた3人の魔法使いの方を向く。少年の視線をたどると数メートル先のやや下のほうに3人はいた。ここは奴らより少し高めの岩場らしい。
「お前達、まだ体を動かし足りないらしいな?・・・俺が相手をしてやる。」
リッカはそう言った自分のすぐそばに立っている少年を見上げた。
水色の髪、青い大きなバンダナ、同じく大きめで少し柄の入った黒いグローブ、真っ直ぐ見据える蒼い瞳・・・。
悲鳴を聞きつける前に見た、少年だった。