3、疾風の舞人

 

 自分を救ってくれたのは先ほど見かけた少年だった。

 そして今、その少年は自分と対峙していた3人の男達と睨みあっていた。いや、少年の目は睨むというより見据えるといった感じだろうか。

 「てめぇか〜・・・オイ、コラ降りてきやがれ!」

 「相手をしてやるだと〜?俺たちに言ってんのか、ああ!」

 「じゃあ、してもらおうか。言ったからには・・・ちゃんと守ってもらうぜ?!

 少年の視線の先にいる男達は相当怒りが来ているらしく、そう言うなり手に魔力を込め、いっせいに踏み込んできた。

 リッカはハッと身構えようとするが、座ったままの姿勢のためかうまく力が入らない。迫ってくる男達から横の少年に視線を移す。

 「・・・あれ?」

 しかしそこにはもう少年の姿は無かった。いったいどこに・・・?

 再び男達に方へと視線を移すと、3人の中心に少年の姿があった。

 え、いつのまに・・・?たったさっきまでここにいたはず、なのにここから数メートル離れたあそこまで・・・まったく気づかなかった。

 「二言は無い・・・。」

 少年は一言そう言った後、姿勢を低くし右斜め後にいる一人のみぞおちに肘打ちを打ち込む。男は反応すら出来ず後ろに飛ばされた。むしろ反応すらさせてもらえなかった。

 少年は姿勢を落としたまま流れるように隣にいた男を蹴り上げた。

体のサイズに合わず、威力もかなりあるのだろう。蹴り上げられた男がリッカのいる岩場の近くまで飛ばされた。

 速い・・・!

 先ほどから間近で見ていても、完璧に目で追いきれていない。ただ仲間が反応も出来ずに倒されていくのが目に留まるだけだ。油断し・・・っ!

 そんなことが頭を過ぎったときには、少年の手は最後に残っていた男の首もとを捕らえていた。そしてそのまま地面に叩きつけられる。

 ドガッ!

 「がはぁっ・・・!」

 喉の奥からうめき声があがった。かすかに岩の砕ける音がする。

 (こんな魔法使いでもねぇ奴なんかに・・・。)

 驚きと悔しさを思い、男は意識を手放した。

 3人の魔法使いは地面に横たわり、ことは終わった。一瞬の出来事のように・・・。

 「・・・・・・。」

 リッカは呆然と見ていた。少年を、魔法使い達を・・・。

 少年の速さに目を奪われ、ただ見ていることしか出来なかった。正確には少年の速さもそうだが、すべて一撃でしとめていった身のこなしに目を奪われていたのかもしれない。

まるで・・・

 「舞・・・」

 そんな言葉が口からこぼれた。そう、流れるような無駄な動きの無い動作はまるで舞のようだった。自分を助けてくれたもあのような感じだったのだろう。

 そして本当に心の底からホッとしていることに気がつく。

今まで抑えていた恐怖感が押さえる蓋を無くしたように溢れ、そして安堵感へと変わっていく。次から次へと。

 思わず涙が出てきた。さっき力が入らなかったのは座っていたからではなく、単に腰が抜けていたからだったのだ。本当にもうダメかと思ったとき名も知らない少年に助けられ、驚きとともに、慣れない状況下での無我夢中で張った必死の虚勢、押さえていた恐怖、緊張感が一気に打ち砕かれたのだ。

 情けない・・・そう思った。

 「おい。」

 「えっ・・・あ、はい!」

 突然少年が呼びかけてきた。慌てて涙を拭う。

 名前も何も知らない少年だが、この少年が助けてくれたのだ。お礼を言わなくては。

 「あ、あの助けてくれてありが・・・」

 「セントアニマルを知っているか・・・?」

 「え・・・?」

 お礼を言おうとしたリッカの言葉は途中で遮られ、いきなりそんなことを訊ねてきた。

 「セント・・・アニマル?」

 「知らなければいい・・・。」

 「え、あ、ちょっと待って!」

 「・・・?」

 素っ気無く去っていこうとする少年に、思わず引き止めてしまう。

 セントアニマル・・・よく分かんないけど、このままなんて・・・あっ、そうだ!店の奥にある書庫になら何かあるかも。あそこには代々魔法使いが使ってきた本がある。

 「あのっ・・・そのセントアニマルを探してるんなら、店の書庫になら何か資料があると思う。私が手をつけきれていない本も、古い本もいっぱいあるからきっと・・・。」

 「・・・。」

 少年は考えているのか、無言でリッカを見る。リッカも必死に目で訴えかけるように少年を見つめる。助けてもらっておいて何も出来ないままは嫌だった。

 「・・・そうか。」

 そう言って少年はリッカに向き直った。

 リッカはホッと笑みをこぼし、まだ少し痛む体を立たせて少年のもとへ歩き出した。

 

 

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